現代社会が直面している様々なヒト疾患について、その発症・増悪の分子メカニズムの解明、ならびに予防や治療につながる技術開発を目標にしています。特に精神疾患や神経変性疾患など、神経系の疾患に注目しています。
私はこれまでの10年間に、細胞内シグナル伝達制御についての研究や、イメージング質量分析をはじめとする解析技術について学んできました。これらの経験を生かして、現在は以下の3つのテーマを軸に研究に取り組んでいます。これらのテーマは相互にも関係が深く、私自身が複数の研究分野を経験してきたこともあり、interdisciplinary researchを常に意識しています。
機能性脂質と膜の性質
私達の体を構成する細胞は脂質の膜で内外が隔てられているため、この膜の組成や状態が細胞への情報入力や応答出力の調節において重要になります。また、細胞内の機能的区画であるオルガネラも多くが脂質膜で隔てられており、情報伝達にやはり脂質が影響します。しかし、脂質は遺伝子やタンパク質に比べると相対的に解析が難しく、疾患における異常やその異常がもたらす影響についての理解が遅れています。私達は最新の質量分析技術や光学技術を応用し、疾患における脂質の役割を探っています。
修飾による分子機能の制御
タンパク質や脂質などの生体機能分子は、翻訳・合成後に分子修飾を受けることで機能が調節されています。これにより柔軟な制御や、素早い応答を可能にしています。私達は、細胞がストレスに晒された時に起こる分子修飾について、その生理学的・病理学的意義を調べています。特に炎症応答は、以前から神経変性疾患との関係は知られていますが、最近では明確な神経変性を伴わない疾患においても関連性が示唆されています。
光を用いた分子の制御観察技術
上述の研究を進めるために、光で分子を操作・観察する技術の応用を進めています。標的が直接ゲノムにコードされていない代謝物や修飾イベントの研究において、従来の遺伝学的な手法は必ずしも十分とは言えません。また、低分子化合物の検出や細胞応答のリアルタイム解析には、抗体等を用いる手法は不向きです。光応答タンパク質を利用して、興味ある分子を操作したり、生きた細胞内の変化をつぶさに観察可能にする技術は、私達の研究に適したツールだと考えています。